アイズの独り言

MARASTONI(マラストーニ)というブランドのイタリアンレーサーをご存じでしょうか。

70年代当時のイタリアで新進気鋭のロッシンの上を行くといわれた工房で、日本には好事家の手によつて10数台が持ち込まれたに過ぎなかった幻の名車です。今回出品車のなかで一番手間がかかり、また最新のレストア用ニューアイテムを組み込んだ一台となりました。

 

**

【MARASTONI RoadRacer /Creative Restoration】

今から14、5年ほど前、イタリアでマラストーニの自転車を捜す旅をしたことがありました。

ミラノでレンタカーを借りてベルガモ・パドヴァ・ボローニャといった街を巡って旧い自転車を捜しながらの旅でした。そしてようやく探し当てたマラストーニはレッジオ・エミーリアという町にあったものの、すでに店は閉店していて、そのブランドを引き継いだ人物が郊外の工場で自転車づくりを続けていました。話を聞くと、まだマラストーニの自転車は製作することが可能だとのこと、ただラグ類は残っているものの、もはやイタリアでは材料となるチューブが手に入らないとのことでした。私は新しいフレームのオーダーのために日本からチューブを持ち込むことを約束しつつ、とりあえずその場で旧いマラストーニのフレームが残っていないかを訊ました。そして彼が持ち出してきたのが1本の旧いマラストーニのフレームだったのです。

 

 

03030009

残念なことにフレームは事故で曲がっていましたが、まだ修理すれば使えそうな程度でした。早速その場で修理の上、再塗装して日本に送って欲しいと依頼し、帰国しました。半年ほどして送られてきたそのフレームは真新しいデカールとバッヂで飾られたものの、新しい青い塗装は厚ぼったく塗られ、イメージの中のイタリア車独特のシャープさが無くなってしまっていたのです。またフレームの修理も充分とは云いがたく、再度国内のビルダーさんに依頼して修理を行いました。そうしてボチボチパーツを集めてそのうちに組み上げようとして10年以上の年月が経ってしまいました。

*

*

*

P1300617

チネリスーパーコルサと同形のシートラグはこのフレームの最大の特徴で、この形を活かしたレストアを施すことを考えていました。そこでスーパーコルサ同様のメッキ出しに変更することをまず考えたのです。

 

問題は塗色でした。如何にこのフレームに似合う色を選ぶかはずっと考え続けたことでした。ある日イタリアのオークションサイトを見ていて一台のマラストーニのフレームが売りに出ているのを見かけたのです。

mara_01

それが今回の塗色の白に赤の胴抜きという、まるで日本のために作られたかのようなフレームカラーだったのです。(画像/イタリアオークションサイトより)

 

 

 

**

レストア後。

P1300599

デカールについても今はあちこちで入手できるようになり、アメリカやイタリアでもリクエストに応えて製作してくれるところがあります。日本でも細かな注文にこたえて製作していただくことができ、今回はそうしたあちこちのデカールを組み合わせて活用しています。

 

P1300600

そうして塗り上がったのが今回のマラストーニ・ジャポネーゼです。1964年の東京オリンピックように作られたというチネリのイメージをそのまま写し取ったような姿になりました。

 

 

****

そこにタイミングよく出来上がってきたのが、当店が5年越しで取り組んできたチネリのマッドガードの復刻版です。

60年代以前はイタリアのロードにも練習時のために泥除けを取り付けるのは普通の事でした。東京オリンピック当時輸入されたチネリにはマッドガードがついていたそうです。それを復刻するべく粘りづよくホンジョさんにお願いしてきたのでした。それがこの夏ようやく形になったのです。急遽チネリの泥除けステーを模したステーを用意して組み付けたのでした。

P1300613

P1300612

P1300620

 

 

おそらく今年一番の出来栄えとなったこのマラストーニは、是非ご来場していただいてその目で確認していただければと思います。

P1300590

親方


今日はプジョーとビアンキ、2台のレストア車をご紹介します。どちらも今でもよく耳にする名前ですが、さてどんな自転車なのでしょうか。
 
 
 
【Peugot roadracer 550mm 1960s】
1962年製のプジョーPX10。この自転車はサンプレ初のパンタ式変速機「エキスポール61」が組みこまれた当時の最高級モデルです。
PJ_4
時が経つうちに、ちぐはぐになってしまった他のパーツを、エキスポール61にふさわしいパーツで再構成しました。





ストロングライト57のチェンホィールとLJ23のフロントメカはオリジナルのまま。
PJ_3
 
ハブは初期ノルマンディのルックスコンペティション注口付きに。
PJ_5
 
サドルはイデアル52プロフェショナルへ。
PJ_2
 
また、フレームはフルタッチアップで塗装面をきれいに仕上げ直しました。
PJ_1
再塗装としなかったのは、当時のままのオリジナルデカール(フレームに貼られたロゴ等のシール)がきれいな状態で残っていたので、それをそのまま活かしたかったからです。塗装をやり直すには、デカールを全部はがしてしまわないといけません。可能なかぎりオリジナルの状態を活かしてレストアした一台です。
 
 
 
 
【Bianchi Promenade】
フレームとヘッド小物が一体になった特徴的なこの造りから、これがビアンキのルパルトコルサで作ったものだとピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。
Bianchi_2
コルサというのは競技という意味。この自転車はもともとビアンキのロードレーサーでした。
イタリアでは、競技の世界から引退した選手たちが、選手時代の自分の愛車を街乗り仕様に組み換えて乗るということがよくあったそうです。今回はそれにならって、散歩が楽しくなりそうな自転車に組み直しました。





フラットハンドルにチェンケース。
Bianchi_1

Bianchi_3
 
 
とくに面白いのがここです!
Bianchi_4
シートステーに沿って伸びる2本の棒。これは、カンパ初期の変速機です。今回は、街乗り仕様なのでカンビオスポルトという棒が長いタイプの変速機を装着しました。最も一般的だった棒式変速機カンビオコルサと比べて棒の長さが長いので、上体をあまりかがめずに変速できます。これを街で操作しながら走っていたら自転車に乗っている本人はもちろん、偶然見かけた人もなんだか楽しい気分になりそうですね。
 
 
こんなところにも、親方や店長はおもしろがっていました。
P1300660
「カンビオコルサ用のエンドに外装の変速機のためのブラケットが後付けされてるなんて、前の持ち主が棒式変速機をはずしてカンパのグランスポルトなんかを組み付けていたんじゃないかな。」と親方。そんなふうに想像しながら自転車を見るとおもしろいですね。
 
 
 
 
*****

じつは、この2台の自転車には、レストアのための最新パーツが使われています。それがこのブレーキアウターです。
BC_2

BC_1
日泉ケーブルさんと開発したこのブレーキアウターは見た目だけではもちろんありません。ライナー入りブレーキアウターなので、ブレーキの引きがぐんと軽いんですよ。
 
 
オリジナルを大切に考えレストアをするためにどうしても必要だったこのパーツ。それまでは国外でデットストックが出た際に買いためておかないといけませんでした。時間を経て、ちぐはぐな状態でアイズの工房へやってくる自転車たちを、可能なかぎりオリジナルに復元しようとするレストアの視点に立つと、こういう小さなところへの配慮が欠かせないのだなぁと感じます。
 
 
プジョーとビアンキ、完成車になった姿はぜひサイクルモードでご覧ください!

なっぱ (2021年退職)


1 2 3

blog

最新記事

Archives

Back Pagetop