レストア技術のご紹介

旧車レストアでは変速機やブレーキといった部品の年式を可能な限りキッチリ合わせます。ひとつひとつのパーツを吟味して年式を合わせて完成度を高めていくのですが、最後に組み上がり完成度を高める決め手は、そうしたパーツを組み付けて行く際に使用する小物パーツです。特に変速やブレーキのケーブルのような半消耗品は当時の純正品で組み付けるとその仕上がりは全く異なったものとなります。しかしながらその純正品は極めて貴重なもので、そうした半消耗品はなかなか新品で出てくることはなくとっておきの一品なのです。

カンパニョロ純正ケーブルセット

一昨年来、日泉ケーブルさんのご協力により、50・60年代のルネエルスの標準仕様だった丸線をアウターの芯材に使用したフレンチビンテージアウターと、やはり50・60年代のイタリア・ユニバーサル社のブレーキアウターを見本にしたアウター表面がメッシュ模様のイタリアンビンテージアウターが使えるようになりました。これでルネ・エルスやサンジェのレストアと50・60年代のイタリアンロードのレストアには不自由しなくなりました。でも多くのファンをもつイタリア車が最も輝いていた時代、名車チネリ、コルナゴ、デローザ、ロッシンなどに標準装備されていたカンパニョロのレコードブレーキのケーブルが課題として残りました。それはなぜかカンパニョロ・レコードのケーブルの撚り方が普通とは逆になっていて、そしてその製造はとても困難だったからです。

左が普通のS撚りのブレーキケーブル、右はZ撚りカンパです。

現在使われている普通のブレーキケーブルはS撚りと呼ばれるS字の螺旋方向に撚られて製作されています。そしてアウターはそれとは逆のZ巻で芯材を巻いて製造されています。これは同じ方向で巻いてしまうとケーブルを引いたときに抵抗となるからです。これに対してカンパニョロ・レコードのセットのケーブルはZ撚りのインナーにS巻のアウターの組み合わせで作られていました。そのカンパでも80年代には普通のS撚りインナーのZ巻アウターの組み合わせに替わってしまうのですが、イタリア車の黄金時代70年代はカンパニョロのZ撚りのブレーキケーブルによって占められていたのです。

 

日本へ届いたケーブル材

このZ撚りのブレーキのインナーケーブルについて日泉さんで相談したときには、もはやそうしたブレーキインナー用ケーブルを撚って製造する生産設備は日本から消えていたのです。そして唯一の方法として海外の取引先でケーブル材を特別に作ってもらい日本へ持ってきて、さらにはそれを台湾へ送ってヘッドの型を起こして製品化するというものでした。そのためそれは1年以上の年月を経て形となったのです。

アウターケーブルについてはさらに困難でフレンチ・イタリアのビンテージケーブルでお世話になった亀田製作所さんに協力いただき、アウター製造装置の成形パーツをS巻専用に別途製作することによってS巻のアウター生産が可能になりました。しかも実際の生産に当たっては熟練の職人さんが機械につきっきりでこれを操作して、わずか2mづつという、本当に手間のかかる工程を経て製品化できました。

左がカンパ純正、右が今回のライナー入りのS巻レプリカアウター

アウター表面は半光沢の独特のグレー色を何度かの試作を経て発色してもらい、アウターキャップも数種あるオリジナルの中から最も適当と思われる物を選んで削り出しで製作しています。そうして最後はそのアウターキャップとアウターの嵌め合いもチェックして最善と思われる寸法を出してのアウター一式の製作となりました。

左が純正、右が今回のレプリカです。

違いはインナーヘッドの菱形にCの刻印の有無

 

さらにインナーケーブルに古色をつけたオールドタイプと新品そのままのニュータイプの2種類を用意しています。

 

これは日本の職人さんの技術と熱意によって出来上がった70年代のイタリア車のレストアに欠かすことのできないブレーキケーブルセットです。

 

余談

早速に今回出来上がったレプリカブレーキケーブルを、70年代のオールカンパのイタリアンロードで組み替えたところ、20歳のころに初めて乗った友人のコルナゴスーパーのカンパブレーキの剛性感のある制動を思い起こしました。「そうそうこれがカンパのブレーキだよね」としみじみ独り言を呟いていました。力強いオールカンパの復活です。

 

 

親方

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2017.11.20

Vブラケット

シクロランドナーといえばVブラケット。40年代50年代のフランスランドナーにはシクロランドナーが定番的についています。その変速機をフレームに取り付ける形もいろいろでした。メーカー純正のシクロ直付け台座もあったのですがこれではちょっと味気ない、高級ツーリング車のクリエーターは各々に取り付けスタイルを考えました。Vブラケットと呼ばれるようになつたエルスの様に2本のパイプを組み合わせたもの、サンジェのは4本、ルーテンスは3本でした。そういえば1本というのもありました。

Rene HERSE

 

Alex SiNGER

 

Jo.ROUTENS

 

メーカー不詳

日本ではトーエイ社がエルスを真似た2本のVブラケットを作っています。でもエルスとの違いはエルスは8mmパイプを使用しているのに対して丈夫なちょっと太めの9mmパイプです。

チェンステーへの取付部には菱形補強版が入っています。そしてシクロ取付部の板は差し込み部を持たせた専用品ですね。

昭和40年代に製作されたトーエイのシクロ仕様車のVブラケットは異様に長く作られていました。やはり昔の人はジョッキープーリーがローギアより上にあると変速しずらいと考えたのでしょうね。エルスを見ますとシクロを取り付ける位置はほぼ一様です。実際変速してみますとかなりのワイドレシオでも問題なく変速させることができます。つまりVブラケットの取付位置は変速機のシャフトとフリーへの平行性さえしっかり出せば細かな位置は大きな問題にならないということです。

実際の製作ではまず取り付け部ブラケットを鉄板から削って用意して、このブラケットを定盤に固定したフレームに対して平行が出るようにマグネットに棒を立てた先端に取り付けられる簡単な冶具を製作しました。

フレームとブラケット取り付け部の位置をほかのエルスの車体から拾った数字で決めて、これに合うようにベンダーで曲げておいた8mmパイプを現物合わせで削り込んでいきます。2本のパイプが用意できたところで1mmの鉄板から切り抜いた菱形補強版をセットして準備完了。あとは一気にロー付けして完成です。

でも今回はチェンレスト仕様、6速分のストロークが必要でした。通常より5mm外側来るようにブラケットも長めになりました。ホイールと変速機を取り付けてストロークをチェックしてOKです。

完成するしたエルスのVブラケットにマウントされた6Vのシクロランドナー。

親方

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