Vブラケット
シクロランドナーといえばVブラケット。40年代50年代のフランスランドナーにはシクロランドナーが定番的についています。その変速機をフレームに取り付ける形もいろいろでした。メーカー純正のシクロ直付け台座もあったのですがこれではちょっと味気ない、高級ツーリング車のクリエーターは各々に取り付けスタイルを考えました。Vブラケットと呼ばれるようになつたエルスの様に2本のパイプを組み合わせたもの、サンジェのは4本、ルーテンスは3本でした。そういえば1本というのもありました。
Rene HERSE
Alex SiNGER
Jo.ROUTENS
メーカー不詳
日本ではトーエイ社がエルスを真似た2本のVブラケットを作っています。でもエルスとの違いはエルスは8mmパイプを使用しているのに対して丈夫なちょっと太めの9mmパイプです。
チェンステーへの取付部には菱形補強版が入っています。そしてシクロ取付部の板は差し込み部を持たせた専用品ですね。
昭和40年代に製作されたトーエイのシクロ仕様車のVブラケットは異様に長く作られていました。やはり昔の人はジョッキープーリーがローギアより上にあると変速しずらいと考えたのでしょうね。エルスを見ますとシクロを取り付ける位置はほぼ一様です。実際変速してみますとかなりのワイドレシオでも問題なく変速させることができます。つまりVブラケットの取付位置は変速機のシャフトとフリーへの平行性さえしっかり出せば細かな位置は大きな問題にならないということです。
実際の製作ではまず取り付け部ブラケットを鉄板から削って用意して、このブラケットを定盤に固定したフレームに対して平行が出るようにマグネットに棒を立てた先端に取り付けられる簡単な冶具を製作しました。
フレームとブラケット取り付け部の位置をほかのエルスの車体から拾った数字で決めて、これに合うようにベンダーで曲げておいた8mmパイプを現物合わせで削り込んでいきます。2本のパイプが用意できたところで1mmの鉄板から切り抜いた菱形補強版をセットして準備完了。あとは一気にロー付けして完成です。
でも今回はチェンレスト仕様、6速分のストロークが必要でした。通常より5mm外側来るようにブラケットも長めになりました。ホイールと変速機を取り付けてストロークをチェックしてOKです。
完成するしたエルスのVブラケットにマウントされた6Vのシクロランドナー。
エルスフロントメカ
50年代のエルスには必ずエルスのスペシャルメゾンのフロントメカが仕様されています。これは角パイプと角パイプを組み合わせ、内側のパイプに直付けされた羽根をスライドさせるという極シンプルなものです。構造は簡単ですが作るとなると大変です。
トーエイ社でもコピーのフロントメカを製作していますが、このメカの肝である角パイプが曲者で、そもそも細い角パイプは市販品がありません。トーエイ社で使用している角パイプを分けてもらうとこれがエルスより一回り太い11mm角と8mm角の組み合わせで、オリジナルのレストアには使えません。
オリジナルの羽根の角パイプをよくよく見ますと、その断面はコの字型の角材に蓋をしています。そうなんです。それは既製品ではなくエルスで作られていたものだったのです。
用意するものは9mmと7mmの角棒です。これをそれぞれ肉厚1mmになるようにフライスで加工します。それに合うように用意した1mmの鉄板をふたにして銀ローで取り付けます。後は振り付けた蓋の余分なところを削って仕上げれば角パイプが出来上がります。
フロントメカの羽根は1.5mm厚の鉄板から切り出しての成形になります。これは断面をコの字型に曲げるのがちょっと手間です。羽根の内側のプレートは叩いて叩いて縁を曲げていきます。そこに出来上がった羽根に作っておいた7mmの角パイプを直付けしておきます。
出来上がった外側の角パイプは片方を同じ要領で1mmの鉄板で塞いでしまいます。変速用のロッドを通すための穴もオリジナルと同様にパイプを削ってあけておきます。
フレームへの取付で問題なりますのは直付けの位置です。あらかじめ使用するチェンホイールをセットしてアウターの刃先の位置とストロークするべき内外を確認します。そのうえでまず角パイプの取付位置にこれまた鉄板から削り出しておいた菱形の補強版を直付けします。そこに加工の終わった9mmの角パイプをロー付けするのですが、あらかじめ用意しました羽根のロッドと位置関係を何度もチェックしながらの位置決めになります。もちろん左右のストロークを内外きっちり合うように固定してロー付けです。
ここまでくればフロントメカの再生はほぼ完成です。チェンホイールを再びセットしてストロークさせてみます。きっちり羽根の高さとストローク幅がでていればOKです。後はロッドの支点を固定する台座を削り出して直付けします。
でも今回はもう一つ特別なスペックでした。チェンジケーブルが内蔵仕様になっていたのです。当然これはそのまま使ってワイヤー引きで再生の必要がありました。ワイヤー引きとは言えフレームの直付け関係は通常のロッド式と同じです。以前ワイヤー引きをレストアしたときの記録をもとに、6mmのデュラルミンの板から削りだしで製作しました。これもかなり特殊な形状ですが金ノコと旋盤をつかえば何とか作れます。
エルスのフロントメカケーブル内蔵工作ですが、普通のフロントメカではダウンチューブからBB外の下側を通ってBB裏へパイプが這わせてあるのですが、このフレームではダウンチューブにパイプは入っていません。入口がついている他はBBの中の上側にワイヤーリードがあって後は出口の穴が開いているだけ、ある意味でセッティングは簡単です。
これなら、ロッド式からの変更もできますね。
めでたし。めでたし。