アイズの独り言

2017.07.28

コンクールドゥマシーン

グランボアは6月29日から7月2日までフランス南部のリゾートAmbertで開催されたConcours de machinesへ参加してきました。すでにスタッフによるレポートがこのブログやSNSを通じて出されていますので、多くの皆さんにその実際がお伝え出来たと思っています。グランボアの主宰者である私はそもそもの参加の経緯や準備について、また今後の展開についてお話したいと思います。

 

昨年のConcours de machinesは2016年の3月にフェイスブック上にその開催がアナウンスされました。それはかつてのフランスランドナー文化の黄金時代に開催されたいた「コンクール・デュラルミン」の復活を告げるものでした。17チームがフランス国内から参加して行われていました。当然その時も叶うならば参加はしたかったのですが、僅か3ヶ月でそのための自転車を作り上げて、さらには参加のための諸準備を完了させることは不可能でした。大会後、リヨン在住のフランス人の友人が参加車両の写真を多数送ってくれました。また実際の大会での走行シーンなどSNSを通じて流れてきて大いに興味をそそられると同時に、その出走車の多くがMTBのようなスタイルの自転車だったことに失望を覚えたのです。私はフランスの伝統的なランドナースタイルこそ彼の地で再び復活するべきであると常々思っていました。わずかにアレックス・サンジェとジルベルトゥーなどがそのスタイルを守りランドナーを作っていましたが、サンジェは早々に不参加を表明していて、ジルベルトゥの他わずかな参加者が現代的ランドナーを出走させていたにすぎなかったのです。

2016年ジルベルトゥーのコンクールマシン

 

そうしてその年の暮に2017年のConcours de machine開催のアナウンスが流れました。当然私は即座に申し込みました。それは主催するフランスの人たちにとっては全くの意外な申し込みだった様で、どうしてこのイベントを知ったのかを尋ねられる始末でした。年若いフランスの人たちは極東の果てからエントリーされるとは夢にも思ってなかったようです。かれらがこのイベントを起こした主たる目的はフランスの自転車製造技術の再興なのです。かつてのようにアルティザンと呼ばれる自転車を作る職人たちが己が技術とアイデアで作り上げた自転車を持ち寄って競い、交流することによってもう一度フランスの自転車文化を促進発展させようとするものなのです。

 

このイベントにはテーマがあります。それはかつてのイベントと同様に「軽量ランドナー」であり、その軽さと耐久性・オリジナリティを競うのです。そのためにみな知恵を絞って、オリジナリティあふれる、それでいて実際のハードな走行に耐える自転車を製作して集うものと私は考えました。私の手元には1946年のコンクール・デュラルミンで優勝した一台のサンジェがあります。それはフレーム状態で長らく残されていたもので、先代のエルネストが亡くなる直前に私の願いによって実際に使われていたパーツを捜しだして組み上げてくれたものです。パーツひとつ一つの隅々まで手を入れて、軽量化の極致を求めたこのコンクールモデルは、使われているパーツの形式や素材は多少異なりますが70年以上たっても自転車の基本的な構造は変わっていないのです。まさしく自転車製作者にとってはこれ以上ない目標でありお手本です。その造形の思想をふたたび蘇らせることを一つの柱として私はグランボアのあるべき軽量ランドナーの形を考えていきました。

エルネストと1946年のコンクールマシン

 

まずはフレーム作りから始めました。それまではグランボアの自転車は私の考えたフレームコンセプトを何社かのフレームメーカーにお願いして製作していました。しかしこのコンクールの主眼はオリジナルの自転車を作る者たちがフレームから製作して組み上げた自転車を持ち寄ることでした。

 

キャリアづくりはすでに10年以上行っていて、この間にフレームづくりのための冶具や旋盤は用意していました。私はこのイベント参加を目標にフレーム作りを一気に進め、まずは1月の半ばに科学館で行われる日本のビルダーの集まり「ハンドメイドバイシクル展」に出品すべくフレーム作りに取り掛かったのです。その一本目のフレームは12月の仕事納めの後、自宅の工房で始まりました。年末年始の大晦日・元旦の休日のほとんどは工房に籠っていました。そうしてできあがったのがグランボアのTypeIの一号車です。

グランボアTypeIの一号車

 

この時点ですでにコンクールのためのコンセプトはできていました。日本のツーリング文化のひとつの特徴である「輪行」を自転車のテーマとし、その輪行を簡易にする目的で開発したTypeERを基本形としました。この一号車ではカイセイ019のパイプでラグレス仕様、エンドやクラウンはこれまでTypeERのために用意したものを使い、ジオメトリーもTypeERの通りです。あとはコンクールのテーマに沿っていかに軽量化を図るかです。

 

最大の軽量化はフレームの素材をひたすら薄く軽いものにすることです。ただそれは当然強度の低下をもたらし、剛性不足のフレームになってしまいます。サンジェのコンクールマシンは0.3mmの極薄チューブで作られています。私はこれを受け取ったときに乗ってはならないとエルネストにきつく言い渡されました。当然またがったことは一度もありませんがフレームが損傷することは容易に想像できます。まだフレームづくりでは初心者のわたしがいきなり極薄パイプでフレーム作ることは無謀です。まずは定番的なパイプからです。6月開催のコンクールから逆算して、通常業務の間に製作できるのは月に1本程度で本番までに5本のフレームが製作可能とみて、冶具の調整を行いながら一本ずつ製作していったのです。今回使用したフレームは4本目で本来は予備用、使用パイプはカイセイ4130Rです。これは特段軽量はありませんでしたが以前よりイリベ製グランボアでは標準パイプとして使用していて、十分な剛性があり乗り味が素晴らしいと評価を得ていたパイプです。クラウンは新たに3mm厚で製作したグランボアの二枚肩クラウンです。それが出来上がったのが5月の中旬でした。そして本番用と製作した5本目のフレームではクラウンの他、前後のフレームエンドも特別に4mm厚の物を用意し、さらにはヘッドチューブとBBの内部を0.5mm程削り込んで軽量化を図ったのです。でも出来上がったフレームを比較してみると4本目と5本目の重量の差は15g程しかなくフレームとしての出来を比較するとすっきり作れた4本目を本番フレームとすることにしたのです。そして5本目は予備車として現地で私自身が乗る自転車としました。グランボアの新たなフレームは今回のコンクールのハードなコースで充分な耐久テストがなされたと思います。そして何よりもその乗り味について試乗いただいた方からは好評価をいただいています。

 

個別パーツの軽量化については6月の半ばよりのコンクール参加の予告ブログで紹介させていただいておりますので割愛させていただきまますが、通常では為しえないハンドルやステム、キャリアの軽量化では(株)日東様の協力を得ることができました。また今回本番用に採用には至りませんでしたがパナレーサー(株)様に超軽量の36Bタイヤも試作で用意していただいておりました。これを採用していれば自転車本体重量は8kg台に乗せることもできたのです。ただブラックサイドのモデルしか用意できなかったこと、ダート走行には全く不向きであることを考え30周年記念モデルで作った赤の36Bエキストラレジェを使用することにしました。結果としては今回のハードなコースでは試作の超軽量タイヤを使っていたら早々にリタイアすることになったと思われます。この超軽量タイヤは現在テスト中です。また次回のエキストラレジェの生産時には新しいグランボアのタイヤとしてデビューの予定です。

超軽量36Bタイヤを装着したコンクールマシン。8.98kg

 

 

1946年のコンクールマシンの変速機の軽量化

今回のコンクールマシンで最も注目を浴びていたのは何といってもリアディレイラーの極限まで突き詰めた肉抜き加工でした。結果としてはそれがDNFの原因になってしまいましたが、コンクールはトライする行為にこそ値打ちがあると思います。メカの軽量化は私からの指示ではなくそれを担当した店長の自発的な行為でした。毎日70年前のコンクール優勝車を眺めて仕事をしているグランボアではそれは自然なことです。可能な限りの軽量化の努力をせずしてはるばるフランスまででかける価値があるでしょうか。結果にかかわらず、そこで得られたことは今後のグランボアの自転車づくりに大いに貢献してくれるでしょう。

破損対策でCNC加工プーリーに変更しました

グランボアのスタッフは日々お客様の注文からの課題に取り組み、その答えを求めて努力し、解決策を得ています。それが今回のコンクールマシンには充分に発揮されているものと思います。来年もまたコンクールが開催されるのであれば状況が許す限り再び参加したいと思います。それは一つの定められた状況の中でなしうることを各自の中で伸ばすことのできる大きなチャンスであると考えるからです。しかしそれ以上に私が思うのはこんなイベントをこの日本でも開催したいということなのです。日本にも多くの自転車ビルダーがいます。そしてメカニズムとしての自転車を愛好する人たちがたくさんいます。私はビルダーによるワークスチームに限らず、プライベートチームを含めて開催すれば、自転車づくりというハードを楽しむ人が参加できる新しいイベントになりうると思います。今回のコンクールへの参加により、こうしたイベントでの運営面での難しさを知ることができました。できればこの経験を生かして日本で自転車ツーリングを楽しむ新たなステージを用意できれば、もっと自転車の楽しみが広がるのではないかと夢想しています。

 

親方

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