2019 Concours de Macheine
Concours de Machine=コンクールドマシーン は2016年にフランスで始まった自転車の製造技術を競う大会です。4回目の開催となる今回の大会は日・米・英・独からの海外5チームとフランスのビルダーによる24チームの合計29チームによって競われました。このコンクールで問われるのは競技スピードではなく、自転車の持つ独創性とさまざまな環境に対応するポテンシャル、そして機能美の追求なのです。コンクールはそうした抽象的な課題を具現化して、なおかつ実用性を見せる場となります。
この6月に開催したジャパンバイクテクニークは2017年のコンクールに参加した経験に基づいて、日本でもこんな大会を開催することができたならばという思いから始まりました。
さて今年のテーマはパリブレストパリ。7000人近くのサイクリストがパリから大西洋に面した港町ブレストまでの往復1200kmを昼夜兼行で走り切るという、世界でも最大級のサイクリングイベントです。エントリーした29チームが製作した自転車をこの大舞台で走らせて、その性能をチェックしようという試みなのです。
今回のコンクールはまず今年の1月に審判長から以下のような課題が提示されました。
それはRêveur(仏語で夢想家)氏という架空のお客様の注文に応じて自転車を製作するというものです。以下の10項目がRêveur氏の要望になっています。翻訳ソフトをつかっての翻訳でぎこちない日本語ですが、それなりに意図するところはわかっていただけるかと思います。
1、 この自転車は、1891年に始まったパリブレストパリの歴史に関連する審美的または技術的な証言となるもの。
2、 この自転車が80時間に渡って走りつづける彼の指と手を救いますように、これはパリ・ブレスト・パリによるある種の病気です。Rêveur氏は、それを知っています。2015年PBPの後、多くの参加者と同様に、彼は数週間、小指の感度を失いました。 これを二度と起こさないように。 どうやって? それはあなたの仕事です。 あなたはなんでも再発明することができます
3、 彼のコックピットは、彼を混乱させるケーブルを取り除きます。照明、携帯、およびGPSを充電するためにケーブルを切り替える時間を少なくすること。
4、 彼のブルべカードはすべてのコントロールでチェックで素早く処理できること。それは雨からも守られている-衣服のいくつかの層に覆われているためアクセスできないジャージの後ろポケットからそれを取り出したとき、ふにゃふにゃになったカードにうんざりしています。彼はまた、必須である彼のナンバープレートがうまく取り付けられ、彼を悩ませることがないことを望んでいます。
5、同様に、彼は、自分が乗る食べ物にアクセスしやすく、リスクなしで走行中の食事をできることを望んでいます。
6、ダウンのシェラフとエアマットそれにビバーグテントを積んで銀行の金庫の中のように静かな夜を過ごせるようにすること。
7、Rêveur氏の自転車は、照明に関してPBPの規則を順守します。Rêveur氏は、自転車から降りることなく、フロントライトとリアライトのオン/オフを切り替えたり、強度やモードを変更したりしたいと考えています。
8、Rêveur氏は、パンクした後、できるだけ簡単に解体し、特に後輪を再組み立てできるようにしたいと考えています。
9、Rêveur氏は、雨が降った時ほかの参加者に水をハネ上げることを嫌います。
10、Rêveur氏は、彼の自転車を折り畳み可能にし、Blablacar*のトランクに入れたいと考えています。
*Blablacar(ブラブラカー)とはお金を支払う自動車の相乗りシステムで、アプリやPCから予約して利用します。長距離移動が非常に安価に行えます。
以上の課題をクリアすることによってポイントが得られます。ただそれらも一部でポイントの全貌が次のように一覧表となっています。
直訳すると
検車によって判定される項目(CT)と審判のジャジによるポイントそれに一般および参加ビルダーの投票による得点の比率が明記されています。検車の部分は標準重量が10kgで250g毎に50ポイントずつ加減されたり、80時間の走行時間で15分短縮するたびに2.5ポイントもらえて15分遅れると7.5ポイントの減点のこと、走行後フレームや部品に問題なければそれぞれの得点がありますよというあたりはわかりやすいのですが、審判に判断される部分のなかには「フォルダー」「人間工学」といったよくわからない項目もあります。
いずれにしてもPBPを完走しなければこれらの得点を結果として残すことはできません。そのためにはパイロットに対しては、絶対に走りきることを第一にアシストしなければなりません。
◇
6月にジャパンバイクテクニーク後にすぐ取り掛かったのは、2ヶ月後に開催されるコンクールマシーンの出品車の製作でした。
今回はパリブレストパリを完走するための自転車を製作するというテーマです。
まずはRêveur氏の依頼に沿って、グランボアなりの解釈で製作することにしました。
1. まずは「パリブレストパリの歴史に関連付けての審美的であり技術の証言」というかなり抽象的な注文ですが、私の中のパリブレストパリでの自転車はかつてのアルティザンと呼ばれる自転車職人によって輝くばかりに美しく仕上げられたランドナーの姿です。その姿完全に再現して、その美しさを損なうことなく最新の機能を盛り込んだ新しいランドナーを作ることでした。
果てしなく起伏のつづく、但し大きなクライマックスのないブルターニュ地方の田園地帯をいつまでも走り続けるための自転車。
直進性を優先させたジオメトリーの線を引き、細身のスチールパイプを組み合わせ、美しく均整の取れた形にカットされたラグを組み合わせてその骨格を作ります。そしてトゥークロメ(オールメッキ)で仕上げます。
2. 1200km80時間にも及ぶ走行中の振動対策ですが、細くしなやかなケージングで作られたグランボアの650×38Bの太いタイヤは路面から際限なく伝わってくる振動を吸収してくれます。タイヤが路面からのストレスを大きく減少してくれるのです。しかも1本230gと700×26cクラスの一般的なロードバイクタイヤよりも軽く作られていることで、走行のための負荷を軽減しています。さらにはソーヨータイヤさんから提供された現在開発中のラテックス製の650B用チューブもとても軽くそしてソフトな乗り心地の一助となっています。
3. ハンドル廻りのケーブル類の整理ですが、ワイヤレス電動変速システムSRAM eTap AXSを導入することによって変速ケーブルはなくなります。
ブレーキケーブルは従前のハンドルに沿う形になっていますので、そのためのハンドルにブレーキケーブルのための溝を加工した試作品を用意しました。
そしてライトのためのケーブルですが、国内ではバッテリー式のライトが広く普及していますが、長時間のライドではバッテリーライトは電池の交換を必要となるため、欧米のPBPの参加者の多くがそうであるようにハブダイナモを使って前後のライトに給電する方式を採っています。
今回使用した独・SON社のハブダイナモにはフロントフォークエンド内側に接点を埋め込んで仕様するコネクターレス仕様のSLというモデルがあります。そのための小型専用エンドを製作しているグランボアではこのダイナモからコードは外部には露出させないで、ガードの先端のフロントランプとシートチューブのうしろ側に専用台座で取付けたテールライトを点灯させています。
更に日本の400km以上のブルべではフロント2系統の電装を義務付けられていますので、フロントにはキャットアイの新製品で吊り下げ式のライトGVolt70をキャリアサイドに用意しています。このVolt70は本体後方上部にスイッチが設けられていて、こうしたキャリア取付に適した形になっています。
テールにはこのコンクール用にキムラ製TL07の軽量バージョンを製作して左チェンステーに直付けしました。CR2のバッテリーでも80時間は点灯する計算でした。ところがこのテールは現地で組み立てみると分解梱包した段ボールで見つけることができず、京都の店にも電話して積み残してないかどうか問い合わせてみたのですが、結局のところ最後まで見つけることができませんでした。
4. ブルべカードの出し入れは普通のランドナーであればフロントバッグをしているのでのバッグの上面のマップケースで事足ります。でもマップケースのない、フロントバッグのない、GPSをハンドルにマウントしている今のロードバイクにとってはちょっと不便な点なのです。
ゼッケンプレートもトラディショナルなた専用ダボを付けることで解決です。ただし取り付け位置はボトルの出し入れを考慮する必要があります。
5. 補給食へのアプローチの課題。これは新たなフロントバッグの製作が必要でした。バッグの軽量化が必要と考え素材を軽量なものに置き換えることはもちろんのこと、構造についても充分に吟味して扱い易さを追求したものになっています。パイロットの意見は、普通のフロントバッグでは走行中の振動によりメインコンパートメントの中で食料のような重いものはバッグの下方へ、軽い衣類等はバッグの中で上の方に移動してしまい、走行中に食べたいものを捜すのが大変とのことです。これを解決するためにマップケースの裏に厚みのあるポケットを設けて走行中の補給食はそこから供給して、そこが空になれば休憩ポイントでメインコンバートメントから移動させて補填するということにしました。
6. パリブレストのコントロールポイントには仮眠の施設が併設されていて、有料ですがちょっとした休憩をとることができます。また多くのライダーがコントロールポイントのレストランの隅で横になっていました。また車でのサポートには多くのキャンピング車が使われていて車の中で寝ることもできます。中にはコントロールポイントの敷地にある芝生にテントを張っている人もいました。かなり気持ちよく寝られそうでした。今回はそうしたサポートの無いことを前提としているので自らがそのシェラフなどを持って走ることを課題にしているのです。
今回はパイロットの前野が普段使っている軽量シェラフとネット検索によって調べた超軽量のエアマットを用意してそれを入れるための専用のサドルバッグを製作しました。それで使う予定のないシェラフとマットを1200km運んでもらいました。
7. ライト類のスイッチの設定は最も悩んだところです。PBPの規則では前後それぞれの明るさの規定があり、点滅を禁止しています。
まずフロントライトですが、街路灯の全くない真っ暗なフランスの田園地帯を夜間走行するためには、可能な限り明るさを確保しなければと考えました。キャリアサイドのマウントではホイールによって光の一部がケラレてしまって、前方への照射面積が減ってしまいます。グランボアではドロヨケの先端に取り付けることによってすべての光で前方を照射することが必要と判断しました。そしてそのスタイルを第一の課題の歴史的な美しさを兼ね備えたものにするために、1950年代の仏・シビエの小型砲弾型ライトのボディに、最新のシマノの高輝度LEDライトのユニットを埋め込むことにしました。このシマノのユニットは必要充分以上に明るいことをJBTによって確認済みです。
テールライトも以前からグランボアのカスタムオーダー用に用意していたダイナモ給電のキムラ製小型LEDテールを使用しています。
スイッチは操作性を考えステムトップに埋め込むことにしました。アメリカにはステムトップの回転式のサイクルスイッチがいくつか存在します。今回グランボアが使用したスイッチは乗用車用のライトスイッチです。点灯中はスイッチ自体が青色に点灯してくれます。プッシュ式ですので、PBPのように極限まで疲労していても走り続けなければならない状況でも確実にオンオフを決めることができます。
ただスイッチをステムトップに設定するためには通常のステム引上げボルトは使えません。引上げボルトはまたかなりの重量がありますのでこれを省略することは軽量化につながります。そこで採ったのがステムをフォークコラムで固定する方式です。これは戦前のイタリアのロッド式ブレーキが内蔵された旧い街乗自転車によくみられる方式で、日本では神田のアルプスさんのクイックエースの特徴的な仕様だった仕掛けです。これによってステムのコラム内部を空洞化してスイッチと配線を収納することができました。
8. ホイール着脱については最近のディスクブレーキの普及に伴ってスルーアクスルのエンドが採用されるようになり、ホイールの着脱がクイックレリーズより手間が掛かってしまい、クイックではなくなったことが問題視されていると思います。昔ながらエンドで軽量化のため4mmの六角レンチで着脱できるTririg Styx Areo Skewersという米国製のチタン芯を採用しました。ブラックアルマイト仕上げを研磨して使用しています。
9.ランドナーにかかせないのがドロヨケです。十二分にタイヤをカバーしてほかのライダーに水滴を浴びせることのないものを取り付けるのはあたりまえのこと、特にPBPのような幾日も走るライドでは途中で雨が降ることも充分に考えられます。今回使用したのは本所工研のH50という丸型の普通のモデル。ただしアクセントとしてフレームに入れる線引きの緑を中央に8mm幅で入れて金線囲いをして引き締めています。これもフランス車の典型的な手法です。
10.ここは小型乗用車でも分解して乗せることができる、つまり輪行できるかという課題です。
もちろん輪行できるのは当たり前なのですが、グランボアではドロヨケの着脱方式に工夫をして、より簡易な輪行ができますということでER輪行を提唱しています。クラウン・フロントキャリアリアブリッジ部分ではドロヨケに雌ネジを埋め込み、ドロヨケの外側から取り外しが可能になっています。ただドロヨケの先端にランプを取り付けていますのでコードの処理を簡便にする必要がありました。そこでクラウン裏に接点を設けてコードに触ることなくドロヨケを取り付けるだけで大丈夫な仕掛けを組み込んでいます。
もちろんそれでも車が小さいと乗せられないこともあります。さらにハンドルを外してフォークも抜けるようになります。
電動ワイヤレスの変速システムのため変速ケーブルはありませんので、ブレーキケーブルをアーチ側から外せるようにフレームのアウター受には割加工をしてあります。あとはステムのスイッチとフレーム側のコードの抜き差しを可能にさせるだけです。
以上のようにRêveur氏のご要望をいかにクリアしていくかを検討して、グランボアからの提案ができたと思います。
あとはそれをRêveur氏つまり審判の方々がどう判断するかになります。
実際の審判によるの審査風景です。
そしてこちらは審査前の車検です。
その重さはというと
重量ランキングは見事1位となりました。
マシンのディテールの解説に続きます。
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