アイズの独り言

2023.02.21

速く快適に走る自転車

こんにちは、前野です。
先月のハンドメイドバイシクル展で展示した650Bランドナーの1台は自分が使用することを前提に作られました。

今日はフルオーダーで作った新しい自転車と部品選択の理由を紹介します。

コンセプトは「速く快適に走れるシンプルなランドナー」

 

新しい1台を作るにあたり、まずは使用用途を決めました。

 

ブルべなどの夜間走行を含むハイペースな長距離サイクリング(PBPもまたいつか…)
未舗装林道サイクリング(担ぎは想定しない)

 

自分はのんびりと走ることも好きですが、それ以上に自分の限界に挑むようなブルべに参加したり過酷な山岳コースを走ることが大好きです。
長い峠道で疲れている時に少しでも楽に前へ進んでくれて、メカトラブルなどを起こさず、良い意味で自転車の存在を感じないような、人馬一体で走れる1台が理想です。そうそう、未舗装路を走ることも好きなので多少荒れた道であっても躊躇せず走れることも必要です。

 

なるべく楽に速く走れて道を選ばない。今使っているフロントシングルの650Bランドナーで実現できていることですが、新しい自転車は良い点はブラッシュアップして少し違った味付けの1台にしたいと思いました。

 

部品の構成はグランボアで採用している信頼性の高い現行品をメインに使おうと決めました。
手元変速は便利ですが、シンプルで変速が楽しいWレバーを使いたいです。
今使っているフロントシングルランドナーはシフトレバーの関係で、前後輪と前後泥除けを外して輪行袋に入れるロードバイクと同じ縦型輪行です。
新しい1台は方向性を変えて、よりコンパクトな荷姿になるフォーク抜き輪行に対応させます。これは縦型輪行に問題があるのではなく、単純にフォーク抜き輪行に対応した自転車にしたいという個人的な趣向です。

 

 

 

2017年から使用している通称 ” 4号車 ”

まずは今乗っている自転車の紹介を。

こちらは2017年にフランスのアンベールで開催されたハンドメイド自転車の競技会コンクールマシンにグランボアが参加するべく製作された2本の内、予備車となった軽量ラグレスフレームで組み上げたフロントシングルランドナーです。

SRAMフォース1をメインとした1×11s(前40T、後11-40T)のフロントシングル、前後ハブダイナモ給電のライト、快適なイデアルの革サドルなどを備えています。ロード/グラベル用としてフロントシングルが登場して間もないころだったので、フロントシングルコンポーネントの使用感を確かめるためのテスト車という側面もありました。

この自転車に2017年の秋ごろから乗り始めて今に至るまで、京都から岩手まで走る1000㎞ブルべから瀞川氷ノ山林道の砂利道まで様々な道を走ってきました。

殆ど不満はないのですが、得意分野があれば不得意分野があるのも事実です。

 

変えたい部分があるとすれば以下の項目になります。

 

・平坦な道を効率よく走るための、トップ寄りがクロスレシオなギア構成
・650×42Bタイヤに最適化した機敏なハンドリングと泥除けクリアランス
・ロードバイク寄りのポジションを出しやすくする為にリーチを長くする
・メンテナンスを容易にするためテールライトへの電装の簡易化
・Wレバー変速(もしくはeTap)でフォーク抜き輪行に対応させる

 

 

上記を満たしつつ、アイズバイシクルで提供可能な現行部品を使用して新しい自転車を製作しました。

 

 

 

 

新しい650Bランドナー。フレーム番号にちなんで通称 ” T1”

【スペック】

・フレーム:グランボアラグレス  カイセイ4130R (C-T 550mm、BB-サドルトップ 680mm)
・ヘッドセット:グランボアヘッドセット輪行用
・タイヤ、チューブ:650×42Bエートルエキストラレジェプリュ(試作品)、レール650
・ハブ:SON DeluxWideBody 28H、グランボアスモールフランジハブ28H
・リム:パセンティブルべ28H
・クランクセット、BB:サンエクシード、TA 44-28T、タンゲLN7922
・前後変速機、レバー:マイクロシフトFD-R42、同RD-R47S、ヨシガイシルバーWレバー
・チェーン、カセットスプロケット:シマノCN-HG93、同CS-HG400-9 11-28T
・ハンドル、ステム:グランボアフランス型ランドナーバー410mm溝付き、日東NPステム
・ブレーキ、レバー:グランボアシュエット3642、ヨシガイGC-07H
・サドル、ピラー:Berthoud アラヴィ、日東S65
・ペダル:シマノPD-M9100-S
・泥除け:グランボアGB650ML
・前後ライト:SON Edelux2、キャットアイVOLT400NEO、キムラTL-06D

重量:写真の状態で約10.9㎏

 

今回のフルオーダーフレーム製作はアトリエ長が担当

フルオーダーフレームなので従来通りなら親方が設計、製作を行います。
新しい試みとして、今回のフルオーダーラグレスフレームはセミオーダーモデルTypeERのフレーム製作を担当しているアトリエ長の伊藤が作りました。
自分はフレームのジオメトリや追加加工などについてリクエストし、最後の研磨仕上げと部品の組みつけを担当しました。伊藤が設計図を描いてパイプの加工やロウ付け、キャリアの製作を行っています。

 

 

フレーム製作を担当した伊藤より

「今回初めてのフルオーダー車作製にあたって、第一に優先したのが乗り手の求めるフレームの剛性です。オーダーといいましてもそれぞれ第一に求めるものが違うと思います。前野店長が求めたのは、ブルべに走る快適な自転車。つまりは”強い自転車”です。
フレームのジオメトリが乗り味に影響することはいうまでもないことですが、今回気をつかったことは材料のパイプの使い方です。バテット/テーパー パイプをどの位置でカットして剛性を出すか、親方も特に気をつかっているところです。
乗り手の体重、身長、乗り方で必要なフレームの剛性は変わってきます。フレーム製作をする親方を横で手伝いながら見て学んだことです。
フレームの剛性は健脚な前野店長が証明してくれるはずです。」

 

 

 

機敏に走るためのスケルトン

フレームは乗り慣れたカイセイ4130Rをメインとし、トップチューブは4号車より長めに設定してリーチを伸ばしています。その他の寸法も機敏な走りを実現するために少しずつ変更しています。

 

 

万能な650×42Bタイヤ

使用タイヤはここ数年愛用しているグランボアエートル650×42Bを想定しています。

ちなみに写真のタイヤはエートルですが、ケーシングが強化されたエキストラレジェの新型、”エキストラレジェプリュ”の試作品です。2019年頃から試作を重ね、ようやく今春に発売の見通しが立ちました。エキストラレジェタイヤより少し重くなりますが、しなやかなアンチパンク材を採用したことでサイドカットに強く、荒れた山道も安心して走れます。

 

インナーチューブはグランボアレールを使います。115gほどのしなやかで軽量な扱いやすい650B用チューブです。
さらに走りを追及するのであれば、PBP2019の時と同じようにプリュムラテックスチューブを使います。ラテックスなので空気圧管理はシビアになりますが、走りが格段に向上します。

軽量化を優先するなら少し細い38Bか36Bになりますが、自分の使い方で最も優れていると感じるのが650×42Bなのです。

 

ドロヨケ、ペダル

泥除けは650×42Bタイヤでクリアランスを大きく取ることが出来るGB650MLにしました。
4号車はもともと650×36Bを想定した設計なので、泥除けはひと回り細い本所H50CNを装着しています。36Bタイヤを想定した設計のフレームに42Bタイヤを入れると当然ですがクリアランスは狭く、林道を走ると泥除けに落ち葉などが詰まりやすかったのです。

 

クランクは4号車と同じですが、フロント シングル/ダブル という大きな違いがあります。

BBの軸長の関係でこのままではQファクターが4号車より広くなります。
そこで、ペダルを長年愛用してきたシマノPD-A600ではなく、XTRのショートシャフトモデルPD-M9100-Sにすることで解決しています。

 

 

快適なハンドルとシンプルなブレーキレバー

ハンドルはグランボア フランス型ランドナーバー410mm を選択しました。
ランドナーバーを選んだ理由はアップライトなポジションにするためではなく、握り心地が良いからです。中央からせり上がったハンドルの肩部分は手のひらへのフィット感が抜群に良く、長時間の走行も快適です。ブレーキレバーがエアロタイプのヨシガイGC-07Hなのでケーブルを添わせる為の溝付きモデルです。

 

エアロタイプのブレーキレバーGC-07Hを選んだのは、フォーク抜き輪行時にケーブルがレバーから外れないので作業の簡略化につながる事が理由です。ちなみにエアロタイプのレバーでも、ケーブル受けに割りが入っている製品は輪行時にケーブルが外れて大変なことになるので選んではいけません。

GC-07Hにはグランボアのランドナーで定番のGC202Qのようなクイックリリース機能は付いていません。クイックリリース機能があるとアーチワイヤーの着脱が簡単になるので、センタープルブレーキやカンチブレーキの扱いに慣れていない方にはGC202Qをおすすめします。

 

明るいライト、低抵抗ハブダイナモ、軽量リム

メインのライトは4号車と同じSON Edelux2を採用。
非常に優れた配光で遠くまで均一な明るさで照らしてくれるので夜間も自信を持って走ることが出来ます。

 

フロントのハブダイナモはPBPでも使用した低抵抗なSON Delux Wide Body の28Hを使用しています。4号車のSON28は低速時の発電能力が優秀なのですが、今回は高速走行を主眼に置いているのでダイナモの抵抗減を目的としてこちらにしました。

 

リムはおなじみグランボアパピヨンではなく、チューブレス対応のパセンティブルべを選びました。チューブレスとして使う予定はありませんが、軽量なので採用しました。4号車のグランボアパピヨンは5年間トラブルなく使えたのですが、このリムの耐久性はどうでしょうか?

 

 

ブルべ用にサブライトを装備

キャリア左側にはキャットアイ製のバッテリーライトを装着するためのブラケットを備えています。
ブルべに参加する際はキャットアイの吊下げ対応ライトをサブライトとして装着します。
メインライトのEdelux2で夜間走行は充分快適なので2灯付ける必要はあまりないのですが、日本のブルべを統括するオダックスジャパンの規定で400㎞以上のブルべでは2灯以上の装着が義務付けられています。ライト2灯はブルべの参加条件を満たす意味合いが強いです。
無いことを願いますが、万が一夜道でパンクなどトラブルが起きた際に自転車から外して懐中電灯として使うことも出来ます。

 

 

センタープルブレーキ、ダイナモ給電テールライト

ブレーキは4号車と同じくグランボアシュエット3642センタープルブレーキとしました。
カンチブレーキのグランボアミランと同じく強力な制動力に加え、コントロールがしやすいので気に入っています。峠道を走るのが好きなのでブレーキに妥協は出来ません。

 

テールライトも4号車と同じキムラTL-06Dを採用しました。
コンデンサー内蔵で停車後もしばらく点灯を続けます。Edelux2をオンにするとTL-06Dも連動して点灯するので、バッテリーライトのようにスイッチを何か所も操作する必要がありません。

 

 

2×9速、Wレバー

オーソドックスなフロント44-28T、リア9速 11-28Tの組み合わせです。

グランボアTypeERで最も多く採用している8速で充分なのですが、9速にした理由はトップから4枚目までが1T刻みになっていたからです。
自分の用途に合ったカセットが有り、歯数の選択肢が豊富なTAのチェーンリングで使用可能なので9速としました。

変速機はフロントがマイクロシフトFD-R42、リアがRD-R47Sを採用しました。シルバー仕上げでグランボアのランドナーでの採用も多い信頼性の高い変速機です。

 

変速レバーはヨシガイのシルバーWレバーを選びました。シンプルな形状で扱いやすく気に入っています。
Wレバーを採用したのはフォーク抜き輪行に対応させる為と、自分の趣味です。
変速速度とあらゆる状況で変速可能という点で手元変速の性能に敵いませんが、Wレバーを触る指先から感じる、チェーンが移動してスプロケットと噛み合うまでの過程が楽しいのです。

ただ、9速のフリクション変速は8速に比べて短いストロークで変速するのでシビアになることは否めません。TAのチェーンリングと組み合わせていますが、TAの推奨は8速までとなっています。以上2点からトップ側クロスレシオにこだわらなければ8速で充分とも言えます。

 

 

革サドル、シートポスト

サドルは2年ほど前に購入して少しずつ慣らしていたBerthoudのアラヴィを採用しました。約400gと革サドルとしては軽量で、チタンレールとコンポジット樹脂製のベースがしなるので快適な乗り心地です。革のテンション調整は5mmの六角レンチ1本で行えるのも便利です。

もしアラヴィを持っていなかったらさらに軽量なイデアル#90TiALにしたかもしれません。
アラヴィも本格的に乗り込んでどんな風に年月を重ねていくのか楽しみです。

 

シートポストを日東S65にしたのはアラヴィがイデアルやブルックスなどの革サドルに比べて厚みが少なく、ENEのシートピラーだとハードに乗っている時稀に革がヤグラに底付きすることが有りました。ヤグラと革の接触が起きる可能性が無く、軽量で信頼が置ける日東S65を選びました。
もしサドルがイデアル#90ならヤグラが隠れるENEを選びます。

 

 

こうして完成した自転車は太いタイヤと泥除け、フロントバッグとキャリア、統合されたライトに革サドルなどランドナーとしての様式を持ちながら、レーシングバイクのような機敏さも備えたロングライドの為の1台となりました。

 

 

PBPを走ったグランボアCDM2019

フレームのジオメトリや特殊工作に重きを置かないのであれば、同じような構成でセミオーダーモデルのTypeERを組むこともできます。

同じフルオーダーフレームでメインコンポーネントをSRAMのeTapにすれば、PBPを完走したグランボアコンクールマシン2019のような電動変速を備えたより現代的で変速性能が優れた1台に仕上げることもできます。フルオーダーはラグ付きも選べるのでより趣味性の高い1台に仕立てることも可能です。

それに軽量化の余地もまだまだ残されています。
7700デュラエースやレコードなどを使えば同等の機能、信頼性を備えつつ更に軽量な1台を作ることも出来るでしょう。

 

 

フルオーダーで作る1台

 

新しい自転車を構想するのは本当に楽しい時間でした。

 

今回はハンドメイドバイシクル展への展示が決まっていたので、製作が決まってから完成するまではフルオーダー車としてはかなり短い期間でした。
展示会までの期限こそありましたが、「速く快適に走れるシンプルなランドナー」という構想は1年ほど前から頭の中で殆ど決まっていたので、新しい自転車のスペックはここ数年考えてきた結果ともいえます。

 

オーダーメイドでランドナーというと、ヴィンテージの世界というイメージを抱かれるかもしれません。確かにヴィンテージパーツを使って趣味性を追及するという一面もありますが、今回のように用途をはっきり決めて走り心地や機能面での使い勝手と個人的な趣向を両立させるオーダーの仕方もあります。

 

 

ランドナーのオーダーについて迷われていることがありましたら、まずはアイズバイシクルまでご相談ください。

自分の理想の自転車を考えるのは楽しいですよ。

まえの

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